海外旅行に行く際、
到着時間が朝なら「機内で眠れるように」、
到着時間が夜なら「着いても予定がないから」と、
飛行機の中でお酒を飲むことは珍しくありません。
仕事の場合はともかく、旅行では一杯、あるいはそれ以上飲む方も多いのではないでしょうか。
そんなとき、「いつもより酔いやすい」と感じた経験はありませんか?
まず、お酒に酔う状態の機序ですが、実は複雑で、すべてが解明されているわけではありません。
原因物質の候補としては、アルコール(エタノール)そのものと、分解過程で生じるアセトアルデヒドが挙げられます。
アルコールで酔うメカニズムの詳細については、
👉 こちら(「お酒に酔う」メカニズム)をご参照ください。
飛行機の中でお酒に酔いやすい理由は?
飛行機内でお酒に酔いやすいと感じることは、自分自身を含め多くの方が実感していると思います。
しかし、その正確な機序は、現時点では厳密には解明されていません。
ここでは、考えられているいくつかの仮説を紹介します。
仮説①「空酔い」とアルコール酔いの相乗効果
曲がり角の多い道を車で移動すると車酔いを起こすことがあります。
これは、
視覚・前庭覚・体性感覚の乖離
見たもの、平衡感覚での認知、身体の位置感覚がずれてしまうということ
認知座標系・空間識の不安定化
脳でとらえた空間と実際の空間にずれが生じてしまうこと
によって生じるとされます
飛行機でも同様の現象が起こり、「空酔い」と呼ばれます。
これは内耳にある平衡感覚を司る三半規管が、機体のゆれと気圧の変化によって、刺激されることで生じます。
ある友人は、揺れる飛行機で空酔いを感じ、その状態で飲酒すると、かなり酔いが回ると言っていました。
空酔いと酒酔いの「合わせ技」で、三半規管が悲鳴を上げているのかもしれません。
似た現象として、
酔った人がタクシーの中で吐いてしまうことがありますが、
(乗るまではそれほど酔っていないにもかかわらず!)
これも車酔いと酒酔いの相乗効果と思われています。
空酔いと酒酔いの関連を直接証明する研究はなく、私自身の実感も限定的ですが、
車酔いと同様に、上記の感覚のズレが酔いを強めている可能性はありそうです。
仮説② 機内の低酸素環境とアルコール
飛行中の機内気圧は、約0.80気圧に調整されています(地上は1気圧)
それに伴い、酸素分圧も地上の約80%に低下します。
その結果、体内の酸素飽和濃度(SpO₂)は、
通常95~99%のところ、92~93%程度まで低下します。
酸素濃度が似ている高地(海抜3000m)での研究では、
アルコール摂取により「低下した酸素飽和濃度が、さらに低下する」ことが示されています。
登山家の間では、高地での飲酒により、
高山病によるめまいとアルコール酔いが重なることはよく知られているようです。
飛行機内でも、低酸素状態とアルコールの相乗効果によって、
酔いが回りやすくなっている可能性があります。
酸素はアルコール代謝に必要です。
そのため、低酸素状態でアルコール代謝が低下して、血中アルコール濃度が上がるという仮説があります。
実際に、ネズミの研究では、
酸素濃度(酸素分圧)が通常の約60%まで低下すると、アルコール代謝が32%低下したという報告があります。
ただ、ヒトにおいて軽度の低酸素血症で、
代謝がどれくらい遅れるかどうかは明らかではありません。
ヒトとネズミでは、毒性・毒物に対する耐性が大きく異なるからです
仮説③ 飛行機・旅行・乾燥による飲酒量の増加
仕事で飛行機に乗る場合と比べ、
旅行で飛行機に乗るときの方が、飲酒量が増える方も多いのではないでしょうか。
楽しい旅行では、報酬系のドパミン分泌が増加します。
ドパミンは、食事やアルコール摂取への動機付けを高めるため、
結果として、つい飲みすぎてしまう可能性があります。
この点については、私自身、かなりの実体験があります!
また、機内の湿度は、外気が極めて乾燥していることや結露防止のため、
10~20%に保たれています(温度は22~26度)。
そのため喉が渇きやすく、水分摂取量が増えます。
そこにビール(ときに海外製)などのアルコールが目に入ると、
つい注文してしまうのも人間の性かもしれません。
なお、アルコールには利尿作用があり、
分解過程でも水分を消費するため、脱水をむしろ悪化させます。
まとめ
このほかにも、疲労、睡眠不足、時差ボケなど、
飛行機移動には複数の要因が重なります。
飛行機に乗った際は、
地上よりもアルコール酔いが強く出現する可能性が高いと考えられます。
機内で飲酒する場合は、
健康と旅先での思い出のためにも、
いつも以上に飲みすぎに気を付けることが大切そうです!
参考文献
眞先敏弘. 酒乱になる人、ならない人. 新潮新書, 2003.
Roeggla. Ann Int Med 1995, 122, 925-927
Gavalakis. Toxicology 1999, 137, 109-116
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