アルコールと末梢神経障害 ― 手足のしびれの医学的背景(糖尿病・栄養障害との関係)

食と酒、そして健康

はじめに

お酒を長期間にわたり大量に飲むと、足先(ときに手先も)にビリビリとしたしびれや痛みを生じることがあります。

日常的にお酒を飲む方で「足先がビリビリして痛い」と訴える人がいたら、それはアルコールの影響かもしれません。

長期間の大量飲酒によって生じる末梢神経の障害をアルコール性末梢神経障害と呼びます。アルコール依存症患者の数割以上に認められるとされ、臨床の現場では珍しい病態ではありません。末梢神経障害の原因としては、糖尿病性神経障害に次いで多い原因の一つとされています。

原因は単純ではない

アルコール性末梢神経障害の原因は単一ではなく、複数の要因が関与すると考えられています。

まず挙げられるのは、アルコールそのものの神経毒性です。長期間の大量飲酒は末梢神経軸索に障害を与えることが知られています。

しかしそれだけではなく、

  • ビタミンB群欠乏(特にビタミンB1)
  • 低栄養状態
  • アルコール代謝産物であるアセトアルデヒド(acetaldehyde)の毒性
  • 肝機能障害
  • 喫煙による末梢循環低下

など、多因子が関与する病態と考えられています。

特にアルコール依存症の患者では、食事摂取量の低下や偏食によってビタミンB群欠乏がしばしばみられます。ビタミンB1(チアミン)は神経のエネルギー代謝に重要な役割を果たすため、その不足は神経障害の発症・増悪に関与します。
👉 アルコール分解とビタミンB1・B3 ~飲酒でビタミン不足が起こる理由~

なお、お酒を料理と一緒に適量楽しむ程度であれば、ビタミン欠乏に至ることは比較的少ないと考えられています。

具体的な症状

症状は多くの場合、足先から始まる左右対称の感覚障害です。純粋にアルコールが原因のときは、左右差が強いことは少ないです。逆に喫煙などが絡んだ血行障害に由来する末梢神経障害は片側性のことが多いです。

純粋なアルコール性末梢神経障害は典型的には

  • 足先のビリビリするしびれ
  • 焼けるような痛み(burning feet)
  • 触れると強い痛みを感じる感覚過敏

などがみられます。

初期には夜間に症状を自覚することが多く、睡眠を妨げる原因となることがあります。症状が強いときは、(筋力低下がないのに)痛みのために歩くのが不自由になることがあります。進行すると症状は持続的となり、足から下腿、さらに手先へと広がる「手袋靴下型」の分布を示すことが一般的です。

さらに進行すると自律神経障害も出現し、

  • 足の皮膚の発赤や萎縮
  • 発汗異常(多汗または無汗)
  • 起立性低血圧、ときに高血圧症
  • 排尿障害、便秘・下痢

などが認められることがあります。

アルコール依存症患者では高血圧症が多いことが知られていますが、この背景には自律神経機能異常が関与している可能性が指摘されています。

糖尿病との関係

アルコール依存症患者では、糖尿病、高血圧、低栄養を合併することが少なくありません。

糖尿病は末梢神経障害の最も頻度の高い原因であり、慢性的な高血糖によって神経血流の低下や酸化ストレスの増加が生じ、神経障害が進行します。

アルコール依存症患者に糖尿病が合併している場合、末梢神経障害はより重症化しやすいことが知られています。つまり、アルコールと糖尿病の両者が存在すると、神経障害は相乗的に悪化する可能性があります。

胃切除術と神経障害

もう一つ見逃されやすい要因として、胃切除術後の栄養障害があります。

胃切除後には、ビタミンB12、葉酸、鉄分などの吸収障害が生じることがあり、特にビタミンB12欠乏は末梢神経障害の原因としてよく知られています。これらの栄養素は採血にて評価することが可能です。

胃切除術を受けた方で飲酒量が多い場合には、

  • 栄養吸収障害
  • アルコール毒性

の両方が神経障害に関与する可能性があります。

胃を切除するとアルコールの吸収が速くなり、報酬系が刺激されやすくなるためにアルコール依存症になりやすいという考えもあります。

低栄養と喫煙

低栄養状態も末梢神経障害の増悪因子と考えられています。

アルコール依存症患者では体重減少やBMI低値を示す例も多く、こうした低栄養状態が神経の修復能力を低下させる可能性が指摘されています。

食事と一緒にアルコールを多飲する人は肥満傾向になります。しかしながら、アルコール依存症の方はるい痩になることが多いです。お酒と一緒に食事をするとアルコール血中濃度の上昇が緩やかになり、報酬系の活性化が弱まります。期待した(それ以上の)報酬系の活性化を求めるために、食事をしないで飲酒する人が多くなります。

喫煙は末梢血管を収縮させ、神経の血流を低下させます。その結果、神経の回復力を低下させる要因となります。

治療と予後

治療の基本は、断酒と栄養状態の改善です。

特に、ビタミンB1、ビタミンB12、葉酸などの補充が重要となります。

神経障害による痛みに対しては

  • 神経障害性疼痛の薬剤
  • 抗てんかん薬
  • 抗うつ薬
  • カプサイシンクリーム(唐辛子成分)
  • キシロカインスプレー(保険適応なし)

などが症状緩和の目的で使用されますが、疼痛が難治性となることも少なくありません。

予後については、軽度〜中等度の神経障害であれば断酒と栄養改善により数年かけて徐々に回復する可能性があります。エキスパートオピニオンとして、しびれが出現している期間と同じ期間の断酒が症状の改善には必要との考えもあります。

しかし神経障害が高度になると回復は困難になります。それでも肝機能障害や糖尿病が強くない場合には、断酒と栄養改善によって一定の回復が期待できることがあります。

喫煙者の場合は、禁煙しなければ改善の可能性は低くなると考えられます。いろいろな意味での生活習慣の改善が必要です。

最後に

飲酒量が多い方で、足先のしびれや痛みがある場合には、アルコール性末梢神経障害の可能性があります。この場合はまず断酒を強くお勧めします。

同じ量のお酒を飲んでいても、末梢神経障害が出現する人としない人がいます。障害されるかどうかは個人差が大きいです。同様に障害される臓器にも差があります。ある人は肝機能障害が重篤化しても末梢神経障害は全くない、別の人はその逆ということもあります。人の身体は神秘的です。
👉 γ-GTPが高いと言われたらまずやること ~原因・禁酒の目安を医師が解説~

足がしびれた際は、医療機関の受診をお勧めします。そしてアルコールが原因と言われた際は、強い気持ちで断酒してください。周囲の人との飲酒量の比較は意味がありません。

ビール好きの方には、最近ではビールを一度醸造したあとアルコールを除去する製法のノンアルコールビールも多く販売されています。飲酒量を減らす一つの方法として検討してみてもよいかもしれません。

参考文献

Koike H. Alcoholic neuropathy. Curr Opin Neurol. 2006;19:481-486.
白倉克之, 丸山勝也 編. アルコール医療入門. 新興医学出版社; 2001.
Gane E. Resolution of alcoholic neuropathy following liver transplantation. Liver Transpl. 2004;10:1545-1548.
Dyck PJ. Diabetic polyneuropathies: update on research definition. Diabetes Metab Res Rev. 2011.

👉「心と身体の健康のために」はこちら