― 遠藤周作さんの言葉から ―
遠藤周作さんの言葉を集めた
「人生には何ひとつ無駄なものはない」
(鈴木秀子 監修/朝日出版社)という本があります。
この本は、遠藤周作さんの数多くの随筆や言葉の中から、
長年にわたり交流のあった鈴木秀子さんが、
テーマごとに文章を選び、再構成したものです。
一文一文が抜き出された形なので、
一見すると読みづらそうにも感じます。
しかし不思議なことに、読み進めるうちに
一つの流れとして自然に理解できる構成になっています。
私は遠藤周作さんの作品を
『沈黙』『海と毒薬』など数作しか読んでいませんが、
この本を通して、人生について深く考え続けた作家であったことを改めて知りました。
「落ち込んだ時こそ、人生の本質に触れるチャンス」
病気と共に生きた時間が長かった遠藤さんは、
「落ち込んだとき」について、印象的な言葉を残しています。
「あなたが他人の悪口を言う時は、
その人が、あなたの中で抑圧しているものを
表に出しているから、苛立つのです。」
私たちは、自分の中で重要でないことには、
それほど強い感情を抱きません。
逆に、
- 強く腹が立つ
- どうしても気になる
- 何度も思い返してしまう
そうした感情が生じるとき、
そこには 自分が無意識に抑え込んでいる大切な価値観が隠れていることがあります。
他人を批判したくなったとき、
その苛立ちをそのまま外に向けるのではなく、
「自分の中に、何か抑え込んでいる思いはないだろうか」と
一度立ち止まって振り返るだけで、
少し冷静になれるかもしれません。
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軽く滅入ったときの、意外な活かし方
遠藤周作さんは、軽いうつ状態についても、
こんな視点を示しています。
「自分が滅入った状態にあることを認め、
そのうえで、何かトクすることがないかを考える」
物事には、ほとんどの場合、二面性があります。
自分を客観的に眺める余裕があれば、
その状況を「ただ耐える時間」にせず、
何か得られるものはないかと考えることもできます。
遠藤さん自身、
気分が明るいときには本を読んでも頭に入らないが、
滅入っているときに、感情にふさわしい内容の本を読むと、
一語一語が深く心に染み込み、
書かれている問題が実感を伴って迫ってくる、と述べています。
もちろん、
気分の落ち込みが強く、長く続く場合は、
医療機関への相談が大切です。
ここで述べているのは、
あくまで「軽く滅入ったとき」の話です。
孤独な時間が、心を深くすることもある
「滅入ったときは孤独になりなさい。
滅入っているときは、人生の本質に触れる絶好のチャンスだと思いなさい。」
心が弱っているときほど、
芸術が深く心に響く、という話があります。
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この本を読むまでは、
私はそのような考え方を持っていませんでした。
しかし実際に、
落ち込んでいるときに
静かなクラシック音楽を聴くと、
自分の心と対話しているような感覚になりました
なるほど・・・
名画の鑑賞も、
気分が良いときより、
滅入っているときの方が
多くのものを感じ取れるように思いました。
次に気分が沈んだときは、
絵画鑑賞にも挑戦してみようと思います。
平凡な人生の中にある、静かな劇性
「あの人の人生は劇的だ」と言うとき、
私たちは映画や小説のような出来事を思い浮かべがちです。
しかし、
多くの人生は、
劇的ではない平凡な日常の積み重ねです
ただ、その平凡があるからこそ、
ときどき現れる「劇的な瞬間」が際立つとも言えます。
同じ出来事でも、
ある人にとっては人生を変えるほどの意味を持ち、
別の人にとっては、
ただの通りすがりの出来事に過ぎないこともあります。
遠藤さんは、
奥さんとの出会いを「劇的で神秘的」と語る一方、
駅前ですれ違っただけの人にとっては、
平凡な通行人にすぎない、と表現しています。
マイナスの中に、プラスが潜んでいる
「半年間の病床生活は肉体的にはマイナスでしたが、
このマイナスのおかげで、
自分の人生や他人の苦しみを察することができるようになった」
どんな出来事も、
立場や視点が変われば、
まったく異なる意味を持ちます。
ある人にとっては生きがいとなるものが、
別の人にとっては、
ただ心を荒らすだけのものになることもあります。
「過ぎたるは及ばざるがごとし」と言いますが、
どんなに善い行いでも、
過剰になれば別の価値に変わってしまうことがあります。
その境界線を自分で感じ取るのが難しいとき、
率直に意見を言ってくれる存在が近くにいることは、とても大切です。
「自分はこういう人間だ」と決めつけず、
複数の価値観を持った存在として生きる。
そう考えるだけで、
人との関係も、自分自身への見方も、
少しずつ柔らかくなっていきます
そして、少しずつ心が軽くなるように感じます
おわりに
遠藤周作さんは、
挫折も、失敗も、病気も、恋愛も、
プラスにしようと思えば、プラスになる
という知恵を伝えることこそが、本当の教育だと述べています。
人生が嫌になってしまうような出来事があり、
落ち込んだとき。
「これは、人生の本質に触れるチャンスかもしれない」
そう思えるだけで、
心の景色は少し変わるのかもしれません。
引用文献
遠藤周作 著/鈴木秀子 監修「人生には何ひとつ無駄なものはない」朝日新聞出版,2005年
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