映画「アリスのままで」(2014年)~若年性アルツハイマー病と“自分らしさ”を失う恐怖~

映画の余韻を楽しむ

本作は、リサ・ジェノヴァの同名小説を原作とした映画です。
主演のジュリアン・ムーア(Julianne Moore)は、認知症によって記憶と自分自身を失っていく主人公を演じ、女優史上初となるアカデミー賞を含む世界主要6大映画賞の主演女優賞制覇を成し遂げました。

「認知症」をテーマにした映画は数多くありますが、
この作品はその中でも特に、病気のリアルさと、家族の心の揺れが丁寧に描かれている印象です。

高名な言語学者アリス

主人公アリスは、第一線で活躍する言語学者です。
夫ジョンと3人の子どもに囲まれ、仕事も家庭も充実した人生を送っていました。

しかし、ある日から

  • 単語が出てこない
  • 道に迷う
  • 記憶が曖昧になる

といった症状が少しずつ現れ始めます。

そして診断はアルツハイマー病

やがてアリスは、同じような病気に苦しむ人々の前で、講演(スピーチ)をすることになります。

「知性」と「言葉」を仕事にしてきた彼女が、
その最も大切なものを失っていくという構図が、非常に象徴的です。

感動の名場面が複数ある映画

映画には「ここが最大の見せ場」という名場面があるものですが、
多くの場合は1つ、多くても2つ程度です。

しかしこの映画は、感動の名場面が複数あります。
それぞれが異なる意味で心を揺さぶってきます。

① 記憶を失う自分を取り繕うアリスの葛藤

記憶が抜け落ちていく自分を必死に隠し、
時に取り繕い、時に崩れていくアリス

この演技が圧巻で、葛藤の表情や間合いが非常にリアルです。
実際の患者さんを見ているようで、違和感がほとんどありません。

② 「アルツハイマー病と戦う」講演のスピーチ

アリスが人前で語るスピーチの場面は、本作の核と言えます。
そこにあるのは「正しい言葉」ではなく、彼女自身の言葉です。

誰かの借り物の言葉ではなく、
自分の言葉で語ることが、人を動かすのだと改めて感じました。

③ 父と娘の本気の会話

年齢を重ねるほど、家族同士で「本音でぶつかる会話」は減っていきます。
しかしこの映画では、父と娘が真正面から言葉を交わす場面があります。

家族という関係の中にある
距離感、期待、諦め、愛情、罪悪感・・・

それらが入り混じった会話は、心の絆そのものを描いていて強く印象に残ります。

④ まだまだ語りたい場面が・・

他にも「これは胸に刺さる」と感じる場面が多く、
見どころが尽きない映画です。

機微考察:監督はALSと闘いながら製作してい

この映画が持つリアリティは、偶然ではないのかもしれません。

原作の著者リサ・ジェノヴァは医師ではありませんが、神経科学の専門家であり、2007年にこの小説を書きました。
彼女は他にも、自閉症やハンチントン病を題材にした作品を執筆しています。
どの疾患も治療困難な難病です

原作は未読ですが、原作の段階から相当リアルに描写されていたのではないかと想像します。

さらに印象的なのは、監督のリチャード・グラツァーについてです。
企画が進んでいた当時、彼は筋萎縮性側索硬化症(ALS)が進行しており、多くの人のサポートを受けながらこの映画を完成させたとされています。

監督は2015年3月、63歳で死去しました。

アルツハイマー病は「記憶」を失っていく病気ですが、
ALSは「筋力」を失っていく病気です。

どちらも神経変性疾患であり、
進行を遅らせる薬は開発されつつあるものの、根本的に治す薬はまだ難しい状況が続いています。

患者さんも医療従事者も、
時間とともに失われていく機能に、どうしてももどかしさ・無力感を感じます。

しかし、それでも

「その状況とどう向き合うか」
「残された時間をどう生きるか」

という問いは共通しています。

監督の心の中を想像すると切なくなりますが、
その切なさが、この名作を生み出した原動力だったのかもしれません。

まとめ:心の健康とは「壊れないこと」ではない

この映画は「心の健康」というテーマとは少し違うようにも見えます。
しかし実際には、人生の困難に直面したときに

  • 自分がどう変わっていくのか
  • 家族がどう支えるのか
  • 自分らしさとは何なのか

という、心の根本に触れる作品でした。

良好な人間関係を築くための習慣を別の記事に綴りました
この記事では相手に誠実に対応することがテーマでした
👉 良好な人間関係を築く3つの習慣

今回の映画は相手に誠実であるとともに、
自分自身に対しても誠実にありたい、というテーマも含んでいると思いました

アルツハイマー病という病気を扱いながら、
単なる医療ドラマではなく、
「人としてどう生きるか」を問う映画だと感じました

静かに、しかし確実に、勇気をもらえる一本でした。

このブログでは
・お酒と健康
・人生を考えさせる映画
・先人の言葉から学ぶ心の健康
についての記事を書いています。
👉「心と身体の健康のために」はこちら

医療の進歩により一昔前は難病だった疾患が、現在は治療可能な疾患がいくつかあります。アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症も少しずつ治療法が開発されてきています。10年後、20年後には治療可能な疾患になっているのかもしれません。そうなったときは、この映画は別の意味で(良い意味で)異なる価値を持つのかも、と期待しています。